（図）Marshall Fire 2022年12月30日の夜の状況
コロラド ボルダーカウンティ大火災（Marshall Fire）の拡大メカニズム - 強風と大気重力波
はじめに
2021年12月30日の Marshall Fire（→ 記事） の被害がなぜこれほどまで拡大したか，以下のNOAA のレポート（以下，「NOAA Marshall 火災 レポート」と呼びます）で図・写真・動画を用いて詳細に説明されています．
High Winds and Marshall Fire on December 30th, 2021, NOAA（アメリカ海洋気象庁） NWS（国立気象局）， BOU（ボルダーオフィス）のレポート
キーとなるのは，以下の3点です．
- 2021年の前半は比較的湿った気候なのに対し，後半は乾燥した気候が続いたこと
- 12月30日に，100 mph （約45 m/s = 「非常に強い」台風）を超える突風を伴う強風が長時間続き，大気重力波（atmospheric gravity wave）がボルダーカウンティー上空に形成されていたこと
- Marshall エリア（ボルダー市の端南東部）で何らかの原因で発火したこと
１の条件は，コロラド州の Front Range （ロッキー山脈の東の麓の南北エリア，北から Fort Collins，Boulder, Golden, Denver, Fort Collins まで）で共通です．
よって，２, 3 の条件が生じれば， Front Range のどこでも同様な大火災になる可能性があるので，万が一の備えが必要と思います．
（Front Range, Wikipedia -Front Range の場所の説明））
大火災が生じた前後の大気の状態
大火災が生じる元になった火事が発生したのは 12月30日の昼前なので，その日の正午，１日前と１日後の正午の大気の状態を，大気の東西方向の鉛直断面図を作成し見てみました．
以下の図は，NOAA（アメリカ海洋気象庁）の GFS （グローバル数値気象モデルシステム）の「解析値」（様々な気象観測データを取り入れた数値予報の出発点となる初期値で一番現実の大気の状態の近い値）から作成しました．
これらの断面図の予報値（数時間先〜）は，「アメリカ大陸部 大気断面図（GFS予報）」（YRAIN.COM）でリアルタイムで公開しています．
2021年12月29日 12時 MST
下の２つの図は，緯度４０度線，高度6,000m までの気温と風（東西風＋鉛直風）の大気断面図です．これは，１日後の同時刻（火災発生時）の図と比較するために作成しました．
2021年12月29日の正午（山岳時間）における緯度40度線で高度6,000m までの気温と風（東西＋鉛直風）の大気断面図マップ
2021年12月30日 12時 MST（火災発生）
続く２つの図は，火災発生時に近い 12月30日 正午の大気断面図です．
デンバー・ボルダーの西にある高いロッキー山脈の分水嶺の東側上空で，気温が波打つように変化していることがわかります．
これは，上で紹介した「NOAA マーシャル火災レポート」に示されている大気重力波によるものと考えられます．
2021年12月30日の正午（山岳時間）における緯度40度線で高度6,000m までの気温と風（東西＋鉛直風）の大気断面図マップ
2021年12月31日 12時 MST
以下の２つの図は，火災発生１日後の 12月31日 正午の大気断面図です．
火災発生時の図に見られた大気重力波の波打つパターンはなくなっています．
2021年12月31日の正午（山岳時間）における緯度40度線で高度6,000m までの気温と風（東西＋鉛直風）の大気断面図マップ
ここまで紹介した大気断面図はグローバルモデルのものなので，数km スケールの局地的な大気の状況は把握できません．
実際の大気重力波の動態を把握するのは，今後，これらの解析値・予報値を背景場・境界条件としてより細かい空間解像度（例えば空間分解能1km モデル）のモデルを走らせた検証が必要と考えられます．このような研究は，今後起こり得る大火災をシミュレートするのにも役立つと考えられます．
以下，今回の火事の３つのキーについて確認します．
（１） 2021年は，前半の湿潤気候で草が育ち，後半は乾燥気候で大きな乾燥した枯れ草が残っていた
「NOAA マーシャル火災レポート」 では，大火災となった背景として，ここ数ヶ月の乾燥気候について紹介しています．
これは，コロラド州 Front Range に住んでいる方は実際に感じることができていたと思います．
夏前半の風景
以下の写真は，上が 2021年6月1日，下が2021年7月1日に撮影したリスビル市のレクセンター近傍のトレイルです．
ルイスビル市レクセンター近くのトレイル，2021年6月1日．遠くに見える山はロッキー山脈とボルダーの Flat Irons 山．
上と同じ．ただし，2021年7月1日の写真．いつもは全く水がないところに水が貯まっています．
冬の風景
同じ場所の冬の写真です．
上と同じ．ただし，2021年12月18日の写真．カラカラに乾いています．
ここは，草が刈られているので，草丈は短くなっていますが，多くの場所では背丈の高い乾燥した草が生えていました．
火事でこの枯れ草も燃えました．
大火災の後の降雪
大火災の後に雪が降った後の風景．
上と同じ．ただし，2022年1月8日の写真．
大火災が発生する前に，このように雪に覆われていれば，強風でもこのような火事にはならなかったと推測されます．
（２）100 mph を超える突風が吹き，ボルダーカウンティ上空に長時間安定した大気重力波が形成されていた
以下は，ボルダーのNCAR（アメリカ気象研究センター，日本の気象庁気象研究所に相当）の2ヶ所の気象観測値（風速）です（利用サイト： Mesa Lab, Foothills Lab, NCAR）．
ボルダー南部（火元に近い方）
NCAR Mesa Lab（ボルダーの南の山側） の風速観測値の時系列．12/30 の昼過ぎから深夜まで 80MPH （Gust 突風）を超える強風を記録している．
ボルダー北部（火元から遠い方）
NCAR Foothill Lab（ボルダーの北側） の風速観測値の時系列．こちらも，12/30 の昼過ぎから深夜まで 80MPH （Gust 突風）を超える強風を記録している．
Marshall Fire が発生した日，ボルダー北部でも別の火事が発生していましたが，こちらは拡がる前に消火されました．
上の「大火災が生じた前後の大気の状態」で紹介したように，この日は安定した大気重力波が発生していました（「NOAA Marshall 火災 レポート」）．
火事が生じた場所の煙や灰だけでなく火の粉が，大気重力波により西側に少し離れた場所に降ってきて，火災が飛び飛びに発生したことが示唆されます．
（３）Marshall エリアの発火源の風下（西側）は，Superior, Louisville だった．
Marshall は，ボルダー市の南東端近くに位置します．
強風は西風なので，Marshall から発生した火事は，風下側に飛び火していきます．
Marshall の風下（西側）にある町は，Superior, Louisville,Lafayette, Broomfieldなので，これらのエリアには，避難命令，避難準備命令が出ました．
Google Map の埋め込み
ボルダーカウンティサイトの被害マップ
Marshall Fire - Damage Assessment (2022年1月12日）リンク マップにテキストを入れたもの
火災時の航空写真と道路
火事の情報サイトで提供された写真＋道路情報．
私の家は２つの大きな火の塊の間にあります．
避難する直前の裏庭の写真
まとめ
このように，乾燥した気候条件，長時間（数時間）継続した強風・突風，大気重力波発生時，という条件下で，Marshall で火事が発生し，それが短時間で広い範囲に飛び火し，大火災とになってしまいました．１０００棟を超える家は全焼で，雪が積もった後は家があったことも分からないほどになっていました．
再度強調したいのは，このような大火災のリスクは，同じような気候条件にあるロッキー山脈の東側地域（Front Range）で高いことです（下の図のような高い山が西側にあり強い下降流・大気重力波は生じる地理的条件）．
西側のロッキー山脈分水嶺（川は分水嶺を境に，東西逆方向に流れます）と各都市を表示した大気断面．カラーは気温，矢印は風の流れを示す．
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参照記事
High Winds and Marshall Fire on December 30th, 2021, NOAA（アメリカ海洋気象庁） NWS（国立気象局）， BOU（ボルダーオフィス）の「NOAA Marshall 火災 レポート」
マップ・写真・動画で Marshall Fire 発生時の気象条件を詳しく説明しています．
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「コロラドの大火事（スペリアー・ルイスビル） Marshall Fire 避難命令 万が一の時への備え バイデン大統領訪問」 BOULDER.JP ブログ
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